かながわ健康財団
がん対策

過去のがん予防市民公開講座

平成29年度のがん予防市民公開講座は、罹患率(かかる率)が急速に増加している「乳がん」について、乳がん治療の第一人者、福田護先生をお招きして開催いたしました。

【日 時】 平成30年2月3日(土) 14:00〜15:30

【会 場】 相模原南メディカルセンター 2階 大会議室

【講 師】 聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニック院長
      福田 護 先生
講座内容
『今、知りたい!最新の乳がん検診、早期発見・治療』
講師:聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニック院長
福田 護 先生
 従来は全員に同じ医療を行っていたが、今、医療は個別化医療と言われ、最適な医療のために検査を行い、グループ分けして、患者さんの個性にあった医療を行うようになってきている。
 既婚、未産、乳がんの27歳の女性のケースでは、まず組織診断をし、悪性度の高いがんのため、化学療法を行うことになったが、お子さんができなくなる(妊孕性の低下)可能性があるため、妊孕性を確保しなくてはならないし、若年で悪性度の高い乳がんの場合、遺伝性の可能性もあるので検査をするかどうかも考えなくてはならない。この方は凍結受精卵を保存する方法を選び、その後化学療法を行い、術後6年目に妊娠し、出産された。この方の場合、患者さんが一番いい医療を選択された。本日お伝えしたいことは、乳がん医療、乳がんの考え方の変化、検診、診断、治療などの進歩により、万人向けの医療から個別化医療、最適医療へ向かっているということである。
 最初に、乳がんの増加と一次予防だが、毎年9万人の方が乳がんにかかり、1万4千人の方が亡くなっている。生涯で乳がんにかかる人は11人に1人である。乳がんの社会的問題は、年齢別の罹患率(かかる率)が、1980年代に比べ、35歳〜60歳後半の増加が大変著しい。なおかつ、ピークが40歳後半並びに60歳代で働き盛りの年齢層に多いが、受診率が高くないというのが問題である。がんは自分の普通の細胞から発生する。そして異常な細胞の集団になった時に、その細胞は自律的に増殖し転移し発病する。なぜ異常な細胞になるかというと、遺伝子にタバコ、アルコール、紫外線、放射線、ウィルス、環境汚染等、さまざまな外的要因)で突然変異が起こるからである。
乳がんにかかるリスクで確実だと言われているのがアルコール、肥満(閉経後)、成人期の高身長(閉経後)であり、ほぼ確実なのが成人期の高身長(閉経前)、腹部肥満(閉経後)、出生時体重が重い(閉経前)、成人になってからの体重増加(閉経後)など。可能性ありが喫煙。また、初経が早い、閉経が遅いなどのリスクファクターに入っている。逆にリスクを下げるのが確実と言われているのが、授乳、ほぼ確実なのが身体活動(閉経後)、可能性ありが身体活動(閉経前)、大豆食品・イソフラボンの摂取である。ただこのリスクをなくすのは困難で、一次予防は難しい。したがって乳がんでは死なないためには二次予防、つまり乳がん検診である。乳がん検診の目的は、乳がんからの救命(乳がん死亡率の減少)であり乳がんを発見することではない。その他に早期発見をすることによって、1.機能温存やQOLの維持、2.乳房温存療療法の施行、3.腋窩リンパ節郭清の縮小、4.全身療法の軽減などが期待できる。マンモグラフィ検診は、行うことによって乳がん死を20%減らすことができると言われているが、もうひとつ、超音波の検診を行うかということが問題となっている。そこで超音波の有効性について大規模調査(J-START)が行われた。7万4千人くらいを対象に、マンモ+エコーのグループとマンモのみに分け、第1回目の研究結果では乳がん発見率が、マンモ+エコーの方がマンモ単独より発見率が1.5倍であった。ただ、よく見つかるというだけではだめで、これを行って死亡減少につながるのかどうかというところまでみなくてはいけない。マンモ+エコー検診の死亡率減少効果を検証する時期に来ているが、それにはあと10〜15年かかる。そのため、対策型検診(自治体が行う検診)には時期尚早である。
検診は対策型検診(住民検診型)と任意型検診(人間ドック型)に分かれているので、どの検診を受けるのか受診者が考えて受けることであろう。
 最新の乳がん治療について。T期〜W期まで全期を合わせた生存率は80.7%で、乳がんは非常に治りやすい。ただ乳がんになった患者さんの20%が10年以内に亡くなるという現実もある。なぜ手術をして、転移巣もないのに亡くなる方がいるのか。治療開始時に全身に潜在するがん細胞が存在し、これが大きくなって生命予後に関係する。ということで、手術で病巣を取っただけではなく、全身に潜在するがん細胞をコントロールするためには全身療法が必要である。乳がん治療における生命予後に関する重みは、局所療法(手術、放射線治療)より、全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的薬)の方が重要である。そのため、なるべく手術は小さくし、全身療法を進歩させ乳がん細胞をやっつけて生存率を高めようという形になる。そういう中で乳房温存術が出てきた。さらに「見張りリンパ節」(センチネルリンパ節)を取って調べ、がん細胞が見つからなければ、これからさきのリンパ節にはがんがないだろうと考えられるので、リンパ節をすべて取る(郭清)しなくともすむ。また、乳房全摘後の乳房再建も積極的にするという方向に変わってきた。乳房再建の方法は、自家組織による再建(再建方法自分のおなかや背中の組織を使う)ものと、インプラントによる再建(シリコン製の人工乳房を使う)があり、メリット、デメリットとして自家組織の場合、・やわらかく、温かい、・腹部や背中が痛み、傷が残る、・体への負担が大きく、社会復帰に時間がかかる、・年齢と共に変化する、インプラントは・やや硬く、冷たい感じ、・乳房以外に傷ができない、・体への負担が少なく、社会復帰が早い、・年齢と共に、片方の乳房と差が出る、などがあげられる。乳がんの手術も、個別化、最適化され、乳がんのステージ、広がり、サブタイプなどによって、乳房温存術や術前化学療法、乳房切除術±再建などを行う。そして温存手術後には放射線治療を行う。以前は乳がんのステージ(病期)で治療法を決定していたが、乳がんではがん組織の中のがん増殖に関わる以下の蛋白(•エストロゲンレセプター、•プロゲステロンレセプター、•HER2、•Ki-67(MIB 1))の量を免疫組織染色で、ルミナールA、ルミナールB、ルミナールHER2、トリプルネガティブ、HER2タイプという5タイプに分類し、それぞれ治療法が異なる。ホルモン療法は、エストロゲンの分泌と働きを抑える療法。エストロゲンによって乳がんが増殖するタイプ(乳がんの約70%)に有効で治療期間が長いのが特徴。
化学療法(抗がん剤療法)は、がん細胞に直接作用することで、細胞のDNAやタンパク質の働きを阻害して、がん細胞を死滅させる薬物療法。一定期間、1〜4週間ごとに、単体あるいは2〜3種類の薬を組み合わせて、点滴。投与前に吐き気止めの薬も投与される。抗HER2療法は、HER2タンパクを多く持っている乳がんに対して行われる。3週間に1回の点滴を、約1年間継続する。乳がん薬物療法は進歩しており、術後1〜3年の再発率が低下している。また2017年12月に使用出来るようになった薬剤として、CDK阻害薬が出てきており、ホルモンレセプター陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんに適応となっている。さらに免疫チェックポイント阻害剤も乳がんに使われるということで今研究されて、近々使えるのではないかといわれている。がん細胞は免疫細胞によって排除される。ところが、がん細胞は、この免疫細胞の働きにブレーキをかける仕組みを持っていることが分かった。そこでこのブレーキを働かなくするのが、免疫チェックポイント阻害薬である。しかし、CDK阻害薬も免疫チェックポイント阻害剤も非常に高価な薬で、このままでは保険財政が破たんするだろうと言われている。緒方洪庵がベルリン大学フーフェランド教授の本を翻訳し、「扶氏医戒之略(ふしいかいのりゃく)」12ヵ条というものを書いているが、その中で「病者の費用少なからんことを思うべし。命を与うとも、その命を繋ぐの資を奪わば、また何の益かあらん。」医療費はできるだけ少なくすることに注意するべきである。たとえ命を救いえても生活費に困るようでは、患者のためにならない。ということを記している。すくなくともがん治療においては、こういうことを真剣に考えなくてはいけない時代に来ている。
 私たちの目指すがん治療とは。私たちは標準治療を行っている。標準治療とは、科学的根拠に基づいて証明された治療を行うということ。ただ、科学的根拠が絶対ではなく、そこには当然患者さんの価値観や希望、医療者の技量、医療資源というものもある。こういうものをすべて統合するが、あくまで一番基本となるのは科学的根拠である。それに対してもう一つの考え方として、患者の物語Narrative Based Medicine(物語りと対話に基づく医療療)、病気に対する、医療療に対する、病気を持って生きてゆく人生に対する、患者自身の考え、価値観がある。そこには、EBMとは違うもうひとつの真実がある。この二つを心して常に医療にあたっていかなければならないと考えている。医療の提供する側と受ける側の関係性に関する概念として、説明と同意(informed consent)を経て患者さんの価値観を強く意識し、情報に基づいて患者さん自身が選択する方法が出てきて、今は共有意思決定(shared decision making)といって、医療者と患者さんが共同して決定しましょうということに進んできている。その中で、個人的にはピンクリボン運動に関与してきた。ピンクリボンは「気づき」と「行動」の世界共通のシンボルマークで、乳房健康研究会が行うピンクリボン運動の目標は、乳がんでなくなる人を1人でも減らし、乳がんになった人にやさしい社会を作ることであり、乳房健康研究会が行うピンクリボン運動の使命は、•乳がんについての正しい知識を広める、•早期発見の啓発活動、•乳がん医療・研究の助成、•新しい医療の普及活動、•乳がん患者、家族の支援、•政策立案者・実行者への働きかけである。
今、日本中でピンクリボン活動を様々な方にしていただいている。我々も、単に告知運動をしてもあるいは本を書くだけでは我々の考えは浸透しない、検診受診率の向上はしない、ということで、ボランティアの心と正しい医学的知己を持ち、お隣の人へ働きかけてくれる人をたくさん作ったら、日本の医療も変わるのではないかと「ピンクリボンアドバイザー」を作った。
乳がんは多様性を持つ疾患で、なおかつ、5〜10年の治療の間に多様性が変化していく。こういうことを客観的に理解できて、新しいボランティア運動につなげていかれる人を作りたいという思いで頑張っている。試験を受け、初級から経験を積んで、中級、上級をとっていただくというシステムをとっている。今1万人くらいの人にアドバイザーになっていただいたが、社会を動かすのはまだまだ足りないということで、増やすということを今やっている。
本日お伝えしたことは、乳がん医療、乳がんの考え方の変化、検診、診断、治療などの進歩により万人向け医療から個別化医療、最適医療へ向かっている、こういう中でエビデンスに基づいた治療、患者さんの物語に基づいた医療、そういう医療を患者さんとともに同じ目線で、意思決定を共有しながら進んで行っているとご理解いただければ、本日のお話したことがお伝えできたと思う。ご静聴ありがとうございました。
【質疑応答】
Q1:乳がん検診で、マンモグラフィと超音波で発見すると聞いたが、MRIというのは乳がんと診断されてからするのか、マンモグラフィと超音波とMRIの関係や重要性についてお聞きしたい。

A1:MRIは診断がついて、患者さんにどんな治療を行うかというときに通常用いる。MRIは一番精度が高い乳がんの画像診断法と言われている。ただ、高い検査なので、通常検診では行わないが、乳がんのなかで、5〜10%が遺伝性乳がん・卵巣がん症候群と言われていて、こういうリスクの高い人はMRIが一番いいと考えられている。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の人は遺伝子の変化を治す力が弱く、マンモグラフィは放射線なので、もしかしたら遺伝子変化が起こるかもしれないので、そういう人には少し高いがMRIを使うというように使い分けをしている。

Q2:病院で自己受診しMRIを受けた場合、MRIとマンモグラフィ、エコーの診断はどちらが重要な診断になるのか。

A2:なかなか難しい質問だが、通常検診でも診断でも、マンモグラフィと超音波を基本でやっている。病院にいらしたときはマンモグラフィと超音波を行い、気になる時はMRIを行うが、当然そこに差が出てくる。どちらを信用するかはとても悩むが、MRIは感度が高いのでいろいろなものが見つかってくる可能性が高い。そこで、気になるところをもう一度超音波を行い、それでも気になるところがないという場合は、MRIは少し陽性だが少し様子をみようということだったり、逆にマンモグラフィや超音波で問題のないところにMRIが問題を指摘して、実はこういうところにしこりっぽいものがあるというのが分かることもある。そういうわけで、我々はいつくかの画像診断を統合してやっている。

Q3:良性の疾患があるとがんになりやすいのか、また放射線を胸にあてているとリスクはあるのか。

A3:きわめて目立つ乳腺症がある場合はリスクが高いことが分かっている。小さい頃たくさんレントゲンを撮ったとか、放射線治療を行った人はリスクが高い。放射線は遺伝子にダメージを起こすので、ダメージを起こした細胞が異常な動きをし、がんに変わっていくという可能性はある。
20代、30代の頃は乳腺が活発な時期なので、そこに被曝すると遺伝子変化を起こしやすいので、あまりマンモグラフィはやって欲しくない。40代以降はマンモグラフィによる被ばくによってがんになるリスクは少しあるが、マンモグラフィによる被ばくと、マンモグラフィ検診を受けたことによる救命効果を比較すると、圧倒的に命を救う効果が大きくなる。

Q4:先生方はいろいろな例告知の場面をみておられると思うが、治療の決断をするまでをフォローする臨床心理士やカウンセラーのような専門職の方々の育成はどうなっているのか。

A4:臨床心理士は非常に重要であるが、臨床の場ではふんだんにいるわけではないし、雇い入れている組織もなかなかない現状である。私たちは必要なら臨床心理士に介入いただいている。ただ、医師並びに看護師、特に看護師が重要である。いかに看護師と信頼関係を確立していくかということだと思う。先ほどお話した、共有意思決定(shared decision making)が目標と言ったのはそういうことで、同じ目線で、情報を聞いてやり取りして、お互いに物語があるわけだから、それで意思決定をするのが一番重要である。それが一番時間がかかる。また何人かの看護師が主治医のように話をお聞きする体制を作らないと無理である。また、妊孕性の問題では臨床心理士を交えて行ったりするが、ただ、日本の状況は厳しく、多くの人をカバーすることは難しい。

Q5:2人乳がんの手術をした人がいて、1人は乳房全摘をしたあと薬も放射線も行っていない。もう1人の人はステージ1で部分切除だが放射線治療を行っている。その違いは何か。

A5:全摘というのは、がんが乳房のかなりのところに進展しているから摘出するが、乳房のなかのかなりの部分に広がっているというのは、決して進行したがんばかりではない。非浸潤がんで超早期のがんでも乳房全体に広がっていることもある。その場合全摘となる。ただ、超早期の場合転移している可能性は低いので薬は使わなくてもいい。がんの広がりや性格で大きく取る、小さく取るということをしているので、小さくても性格が悪いのは抗がん剤をがっちりやらなくてはならないということもある。単に大きさだけではなくがんの性格によって治療が変わってくる。
講演の様子
相模原市医師会長 竹村克二氏

開会あいさつ:相模原市医師会長竹村克二氏拡大表示

講師:福田 護 氏

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会場の様子

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